彩の国シェイクスピア・シリーズ第26弾『トロイラスとクレシダ』を観てきた。

蜷川幸雄によるオールメール・シリーズ第6弾は、初の悲劇。
昨年の『じゃじゃ馬馴らし』のコンビに、実力派の若手俳優陣を顔を揃えて前評判もいい。

トロイ戦争が始まって7年が経過。トロイの王子トロイラスは神官の娘クレシダに惹かれ、パンダロスの取り持ちでようやく結ばれるが、クレシダは捕虜交換でギリシア軍に送られる。だがギリシア陣営を訪れたトロイラスが見たものは、ギリシア軍ディオメデスと親密なクレシダの姿だった。

舞台上にはひまわりの花が所狭しと置かれている。茎がまた長い。最前列はひまわりが邪魔になって、上段の芝居が見にくそう。私はD列のセンター席で前に隙間もありまずまず大丈夫。
トロイ軍とギリシャ軍双方を描く度に、ひまわりの花々を片付けたり置いたりする黒子さんも大変そうだ。
その繋ぎもあって、今回はいっそう客席通路を使う演出で、観客の目も忙しくフル回転。通路側は臨場感たっぷりだ。間近で役者を観る楽しみもあるが、役者にとっても気力体力が必要。汗と活気に包まれた舞台だ。

タイトル名の二人の他に、舞台ではあと2組の愛が描かれている。ひとつはトロイ戦争の発端となった、トロイの王子パリスとスパルタ王の妃ヘレネの強奪愛。もうひとつはギリシアの武将アキレウスと彼を慕うパトロクロスの親友愛だ。
物語では「忠実」と「不実」が重要なテーマのひとつだが、男は「忠実」、女は「不実」なるものと見ているようだ。ヘレネは胸も顕な肉体美でパリスを夢中にさせ、神秘的で妖艶なクレシダは初々しいトロイラスの心を焦らしながら手玉にとってみせる。どちらも敵陣営でも堂々と生き延びるしたたかな女たちだ。
だがアキレウスとパトロクロスは、男同士の愛だからこそ純粋で美しい。たまに女に目が眩むアキレウスとそれに嫉妬するパトロクロスの姿も微笑ましく、二人の関係は信頼に満ちている。慢心で戦うことを拒否してたアキレウスはある意味「不実」ではあったが、後半で愛する者を奪われた復讐に燃えて実行する彼の姿は、まさしく「忠実」の愛であったろうと思う。
男女の愛情に疑問をもつ腐女子たちが、なぜこんなにもBOYS LOVEに惹かれるのかw。その答えが、実はこの物語にありそうだw。トロイラス&クレシダの長い口づけより、パリス&ヘレネの熱い抱擁より、アキレウス&パトロクロスの小さなキスのほうに情愛が篭っていた。先の二人は全然悲劇には見えなかったが、アキパトの愛こそ悲劇というものに相応しかった。

若武者の肉体美をじっくり拝めるのは楽しい。山本裕典は細身だが、上半身は程々の筋肉がある。アキレウスの星智也とパトロクロスの長田成哉は後ろ向きの全裸を披露、息ぴったりの快活なやり取りが楽しい。
月川悠貴は肌を見せたスレンダーな美しさで、昨年よりは情感ある芝居に見える。カサンドラの内田滋は狂気と忠義の女だが、もう少し出番が欲しかったな。
パリスの佐藤祐基とヘレネの鈴木彰紀の濡れ場は間近で見てちょっとエロかった。ヘレネは胸も背もデカイw。ディオメデスの塩谷瞬は、アテ書きとも見える役どころw。

老将軍からけしかけられるアイアスとアキレウスの激しいライバル意識や、アイアスとヘクトルが実は親戚だったという関係性が面白い。
アイアスの細貝圭の単純馬鹿な熱血ぶりが気に入った。客席で威勢良く豪語したり、後ろからまっしぐらに走り抜けて来たり、ユリシーズを父と呼ばせてと言ったり、ヘクトルとすぐ和解したり、アイアスの姿はまさに「忠義」な真田幸村だ(@戦国BASARA)。
ヘクトルの横田栄司は凛々しく力強く、トロイのオーラを纏って好感的だが、油断大敵が残念だ。
バンダロスの小野武彦、テルシテスのたかお鷹、原康義のユリシーズの芝居が味わい深い。取り持ち役のバンダロス、毒舌道化役のテルシテスは、共に己自身に「忠実」に生きるが、それが幸せや極楽には繋がらない。底知れない腹黒さの策略家で、実は「不実」なユリシーズが一番美味しい役どころかもしれない。

特撮的には『仮面ライダーカブト』の二人が意外に良き兄弟で、ハリケンレッドとバスコが赤から“青”へと見事に変身w。
カテコで、圭さんと瞬さんが笑い合ってる姿が微笑ましかった。

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